1、意義

 (1)、庁宣とは

  ・庁宣とは、国司庁宣のことであり、中央からの令達その他の国務事項について、京都にいる国守から留守所にいる在庁官人に宛てて発する文書である。公式令による太政官から国へ使わす「国符」が、平安時代中期に発生した国司遥任の制によって代わって生まれた様式の文書である。

 (2)、背景

  ①、国司遥任の制の発生

   ・平安時代中期にはいってくると、国守は京都にいて任国へは自分の代理人(目代)を派遣した。そして、国司の庁所である国衙には下級官人(在庁官人)がいて、目代の指揮に従って国務を執った。この目代と在庁官人によって構成される国庁を留守所といった。

  ②、国司遥任の制による中央からの令達の伝達

   ・中央→京都にいる国守→留守所→国内へという形で伝達された。このうち、「京都にいる国守→留守所」で使われたのが庁宣であり、「留守所→国内へ」で使われたのが下文である。

 (3)、大府宣

  ・九州の場合は大宰府があるので、中央→京都にいる大宰帥→大宰府の在庁官人という形で伝達された。このうち、「京都にいる大宰帥→大宰府の在庁官人」で使われたのが大府宣である。

2、書式

 (1)、書出し

  ・「庁宣 ○○」と書かれる。「庁宣」については国名をつけない。「○○」部分は受取者が記され、在庁官人、留守所、荘官などが書かれる。

 (2)、差出人

  ①、差出人

   ・国司遥任の制の頃は遥任国司の署判が書かれるが、さらに時代が下って知行国主制が生まれてくると、実際の知行国主のみが花押だけを書く例をみられるようになる。

  ②、知行国主制とは

   ・遥任国司のように収入を受け取る者自身が国司に任命されるのではなく、自分の代わりの者を名義上の国司(名国司)にしてもらい、実際の収入はその陰にいる知行国主が受け取る制度。

 (3)、印

  ・国宣は公式令の国府に代わる文書様式なので、初期の庁宣では国印が捺されている例がある。

 参考文献) 『新版 古文書学入門』(佐藤進一、法政大学出版局、1997)