1、条文

 家督相続人ハ相続開始ノ時ヨリ前戸主ノ有セシ権利義務ヲ承継ス但前戸主ノ一身ニ専属セルモノハ此限ニ在ラス

2、解説

 (1)、意義

  ①、意義

   ・家督相続とは、戸主権の相続である。家にある財産はすべて戸主に属するものであるので、戸主権が相続される結果、家督相続の結果、前戸主が持っていた一切の権利義務が承継されることになる。ただし、前戸主の一身に専属する権利義務は家督相続人に承継されない。

  ②、「前戸主ノ一身ニ専属セルモノ」の具体例

   ・前戸主が教育を受ける権利を持っていたとしても、家督相続によってこの権利は家督相続人には承継されない。

   ・前戸主がある人に対して教育を与える義務を持ってたとしても、家督相続によってこの義務は家督相続人には承継されない。

   ・前戸主が他人から養育料を受ける権利を持っていたとしても、家督相続によってこの権利は家督相続人には承継されない。

   ・前戸主が他人を養育する義務を負っていたとしても、家督相続によってこの義務は家督相続人には承継されない。ただし、この義務が法律行為によって生じた場合においては、当事者の意思に従ってその義務を家督相続人に移すこともできる。

 (2)、いつ家督相続は始まるのか

  ①、意義

   ・家督相続によって前戸主が持っていた一切の権利義務が承継される時期は、「相続開始ノ時」である。例えば、家督相続人が遠隔の地にいるような場合は、実際に家督相続人が前戸主の権利義務を行うことは必ずしも相続開始の時ではないが、法律上は相続開始の時から前戸主が持っていた一切の権利義務は家督相続人の承継されたものとするのである。そうしないと、前戸主が持っていた一切の権利義務は一旦無主物となってしまうからである。

  ②、相続財産法人について

   ・立法例としては、相続財産が無主物となるのを避けるために、必ず法人を成立させるという考え方もある。すなわち、家督相続が開始したらいったん法人を成立させて被相続人からいったんその財産を法人に移し、法人からさらに家督相続人に財産を移すとするのである。この立法例をとると、複雑な法律関係が生じるおそれがあるので、明治民法では相続人がいない場合の例外的な場合を除いて、法人の成立を認めなかった。

史料) 『民法要義』(梅謙次郎、明治堂、1899)