1、条文
各共同相続人ハ其相続分ニ応シテ被相続人ノ権利義務ヲ承継ス
2、解説
(1)、意義
①、意義
・被相続人が死亡したら、各自は相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
②、具体例
・所有権について相続分2分の1の時は、相続人は半分の共有権を取得する。
・1万円の債権について相続分3分の1の時は、相続人は3333円余りの債権を取得する。
・1万円の債務について相続分2分の1の時は、相続人は5000円の債務を負う。
(2)、明治民法第1002条との関係
①、問題の所在
・明治民法第1002条は、相続財産は相続人の共有に属すべきものとする。よって、債権債務もまた相続人の共有として、その一部を取得し、もしくは負担するとの本条の規定はおかしいのではないか。
②、答え
・法第427条の規定は、共同債権者または共同債務者が数人ある場合には、各債権者または各債務者は分割した権利義務を有すべきものとしている。よって、債権債務を共有する場合において、法理上は常に債権者または債務者の頭数に等しい債権債務が成立すべきものとする。したがって、債権債務は他の財産権特に物権の共有とはおのずからその趣を異にするものであるので、本条の規定によって各相続人は分れて債権を取得し、債務を負担するものとする。
(3)、相続人間の連帯を認めるか
①、問題の所在
・共同相続人は、被相続人の債権者に対して、連帯してその義務を負担すべきか。
②、相続人間の連帯を認める場合の考え方
・債権者は一人の被相続人に対して債権を取得したものであり、これに対して常に債権者は債権全部の弁済を求めることができる。被相続人の死亡により相続人が数人ある場合は、その権利が分かたれて数個となってしまい、各自に対して債権の一部の履行を求めることができるに過ぎないこととしてなってしまっては、債権者は単に数人に向けて請求をするのが煩雑になっただけでなく、相続人の中に無資力者が生じたために損害を被る可能性も出てくる。債務者一人である場合は、その一人が無資力となる可能性があるかを監督し、その危険がある場合はすぐに相当の処分ができたものを、相続によって債務者が数人に分かたれてしまったために同時に各自を監督することができずに、一人もしくは数人の無資力者が出てしまう可能性もある。よって、相続人を連帯として、債権者を保護する理由があるのである。
③、明治民法の考え方
ア)、意義
・明治民法第1003条では、共同相続人間に連帯はないこととした。
イ)、理由
・債権者の保護には、明治民法第1041条から1049条に財産分離の規定が定められている。
・債務が弁済期にある場合においては、法律は数多の方法によって債権者を保護するので、債権者が注意を怠って損失を被ることはまれな事である。
・相続人はあえて自ら債務を負担したのではなく、相続の結果自ら債務者の地位を得たのであるから、被相続人が負担している義務を相続人に負担させることは適当ではない。
・被相続人は通常の債務を負担していたのに、相続人には連帯債務を負担させるとすることは、相続によって債務の性質を変じるものであり、さらに各相続人は権利については単に一部しか取得できないのに、債務だけは連帯の責任を負わされ、債権者に対して全部の義務を負担しなければならないとすることは、相続人に対して不公平になってしまう。
・遺産相続の場合は遺留分制度があるが、もし相続人の一人が債務の全部を弁済し、他の者がついにその負担部分を償還しなかったときは、債務を全部弁済した相続人が法律の規定によって与えられた遺留分の全部を受けられないという結果となってしまう。
史料) 『民法要義』(梅謙次郎、明治堂、1899)
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